同志社大学大学院 ・生命医科学研究科
システム生命科学研究室
セレノプロテインPとは
私達の体を作るのに欠かすことのできない元素である必須元素は、その含量により主要元素と微量元素に大きく分けられます。必須微量元素の一つであるセレン(元素記号Se)は、体の中に含まれる量は微量ですが、その含量が足りなくなると様々な障害が引き起こされることが知られています。セレンは、システインの硫黄がセレンに置き換わったアミノ酸であるセレノシステインという形で主にタンパク質中に存在しています(図1)。セレノシステインを含む蛋白質として、活性酸素を除去するグルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)や、レドックスを制御するチオレドキシン還元酵素(TR)があり、酸化ストレス防御に重要な役割を果たしています。セレノシステインは、これらの酵素の活性部位を形成していて、GPxやTRの生合成および活性発現にセレンが必須であることが知られています。現在、ヒトに25種類のセレン含有蛋白質が存在することが知られていますが、その一つに血漿中に存在するセレノプロテインPがあります。
セレノプロテインPは、ヒト血漿セレンの53%を占める主要なセレン含有蛋白質で、血漿を表すplasmaの頭文字Pをとりセレノプロテイン‘P’と名付けられました。図1にセレノプロテインPの構造を示しました。ヒトセレノプロテインPは、N末端側に1残基、C末端側に9残基のセレノシステインを含む蛋白質です。当研究室では、セレノプロテインPの機能に着目した研究を行い、セレノプロテインPが、活性酸素を除去する酵素活性を持つことや、細胞にセレンを運ぶ作用を持つことを明らかにしてきました。セレノプロテインPを取り込みやすい細胞や、逆に取り込みにくい細胞が見つかってきていて、細胞表面のセレノプロテインP受容体の同定やセレン運搬メカニズムの解明を目指して、研究を行っています。
図(1)
セレノプロテインPと糖尿病
セレンを含む蛋白質の多くが、活性酸素の除去に重要な役割を果たしていることから、セレノプロテインPによるセレンの運搬は、細胞の酸化ストレス防御に重要と考えられます。実際、血液中のセレノプロテインPが減少すると、細胞内の活性酸素が増加し、動脈硬化やガンの発症率が増加すると考えられています。また、セレノプロテインPのKOマウスでは、脳内のセレンが減少し、運動障害を生じることが報告されています。セレノプロテインPのセレン運搬作用が生体にとって重要な役割を担っていることが明らかとなっていますが、最近の研究からは、セレノプロテインPが糖尿病患者で増加し、糖尿病を悪化することが明らかとなってきました。血糖値の維持に重要なインスリンの働きには、微量の活性酸素が必要と考えられており、セレノプロテインPが増えすぎることで、活性酸素が減り、インスリンの効果が低下すると思われます。当研究室では、セレノプロテインPと糖尿病との関連について、過剰のセレノプロテインPによる糖尿病促進メカニズムの研究を行っています。また、セレノプロテインPの血中濃度測定系を構築したり、セレノプロテインPの取り込みを抑制する糖尿病治療薬の開発にも取り組んでいます。セレノプロテインPを標的とした糖尿病のテーラーメイド医療の実現を目指して、研究に取り組んでいます。