同志社大学大学院 ・生命医科学研究科
システム生命科学研究室
パーキンソン病とDJ-1
パーキンソン病は、手足の震え等の運動障害を伴う神経変性疾患です。パーキンソン病のリスクファクターは加齢であり、60歳以上では100人に1人が罹患すると言われています。アドルフ・ヒトラーやモハメド・アリ、岡本太郎、マイケルJフォックスなど、多くの著名人が罹患したことも知られています。パーキンソン病を発症すると、認知症やうつ病の発症リスクが増加することや、重篤になると歩行や姿勢維持が困難となり、患者のQOLに莫大な影響を及ぼします。現在、パーキンソン病の根治的な治療法は確立されていません。パーキンソン病の90%は、原因不明の孤発性パーキンソン病に分類されます。残りの10%は特定の遺伝子異常が関与し、メンデル遺伝する家族性パーキンソン病に分類されます。これまでに、家族性パーキンソン病の原因遺伝子が複数同定され、その遺伝子の機能が活発に研究されています。
当研究室では、家族性パーキンソン病の原因遺伝子PARK7がコードするDJ-1に着目しています。DJ-1は、ガン化を促進するガン遺伝子として発見された分子ですが、DJ-1の遺伝子変異による機能の低下は、家族性パーキンソン病を引き起こすことが明らかとなりました(図1)。DJ-1は、酸化ストレス防御に重要な役割を果たしていることから、パーキンソン病の発症に酸化ストレスが深く関与すると考えられます。私達は、DJ-1の酸化ストレス防御とパーキンソン病に着目し、パーキンソン病の新しい治療法や診断法の開発に取り組んでいます。
図(1)
酸化ストレスとDJ-1の酸化
パーキンソン病の主な病変部位として、ドパミン神経が多く存在する中脳黒質が同定されています。ドパミンは神経伝達物質として重要な分子ですが、ドパミンの分解や酸化の過程で活性酸素種が生じてしまうことが知られています。そのためドパミンを多く含むドパミン神経は、酸化ストレスが起きやすい神経細胞と考えられています。DJ-1は、ドパミン神経を酸化ストレスから防御し、パーキンソン病の発症を抑えていると考えられます。
DJ-1には、3つのシステイン残基が存在しています。その中でも106残基目のシステイン(Cys-106)は反応性が高く、酸化ストレスが起きるとCys-106がスルフェン酸(Cys-SOH)からスルフィン酸(Cys-SO2H)、スルフォン酸(Cys-SO3H)まで酸化されることが知られています(図2)。当研究室では、DJ-1の酸化反応に着目した研究を行っています。Cys-106がCys-SO3Hまで酸化されたDJ-1(酸化DJ-1)に対して特異的に反応するモノクローナル抗体の作成に成功し、酸化DJ-1の検出を可能にしました(図2)。
私達の研究から、パーキンソン病患者の脳内や血液中に酸化DJ-1が存在することが明らかになってきています。酸化DJ-1が、パーキンソン病患者の早期に検出されることから、酸化DJ-1の早期診断バイオマーカーとしての可能性を追求するとともに、パーキンソン病患者に抗酸化物質を積極的に投与する抗酸化治療の確立を目指して、研究に取り組んでいます。
酸化DJ−1の研究に助成頂いたマイケルJフォックス財団に深く感謝いたします。