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アミロイドβと24S-hydroxycholesterol

 

 アルツハイマー病は アミロイドβ蓄積による老人斑の形成と神経原線維変化を病理学的な特徴とする神経変性疾患です。アミロイドβはアミロイド前駆体タンパク質(APP)からβセクレターゼとγセクレターゼによる2段階の切断により産生されます。βセクレターゼやγセクレターゼはAPP以外にも多くの基質をもつことから、直接これらの酵素を阻害することはアミロイドβの産生を抑制する以外に多くの副作用が出ると考えられています。

 

 APPやその切断酵素であるセクレターゼは、神経細胞内での局在が重要であることが示唆されています。そこで私達はAPPやセクレターゼの小胞による細胞内輸送に注目し、細胞内小胞輸送の選択的抑制を介したアミロイドβ産生抑制という観点から研究を行っています。これまで24S-hydroxycholesterolがAPPの小胞体からゴルジ体への輸送を抑制することで、アミロイドβの産生を抑制することを明らかにしてきました(図2)。本研究室では、より副作用の少ないアミロイドβ産生抑制剤の開発を目指し、細胞内小胞輸送の選択的抑制という新たな創薬アプローチから、研究に取り組んでいます。

24S-hydroxycholesterolと神経細胞死

 

 脳特異的オキシステロールである24S-hydroxycholesterolは、アルツハイマー病や軽度認知症患者の脳脊髄液中で増加していることが報告されています。また、生成酵素であるcholesterol、24-hydroxylaseの多型がアルツハイマー病発症の危険因子として報告されていることから、24S-hydroxycholesterolと神経変性疾患の関連が示唆されています。これまで私達は、生理的な濃度の24S-hydroxycholesterolは、神経細胞に適応反応とよばれるストレスに対する防御反応を引き起こすことを見出しました。一方で高濃度の24S-hydroxycholesterolは神経細胞において、カスパーゼ非依存性プログラム細胞死であるネクロトーシス(Necroptosis)を誘導することを明らかにしました(図3)。さらにコレステロールをエステル化する酵素として知られるAcyl-CoA:cholesterol acyltransferase 1(ACAT1)による24S-hydroxycholesterolのエステル化が、その細胞死誘導に重要であることを見出しました。ネクロトーシスは、これまで広く解析されてきたアポトーシスやネクローシスとは異なる特徴をもつ新規の細胞死形態として、近年注目されています。本研究室では、神経細胞死の制御が認知症の根本的治療法の開発につながると考え、24S-hydroxycholesterolによる細胞死誘導メカニズムの解明や、細胞死抑制剤の開発を目指して、研究に取り組んでいます。

 このように24S-hydroxycholesterolは、アミロイドβの産生抑制や適応反応の誘導という良い面と、神経細胞死を引き起こしてしまうという悪い面があり、濃度によって異なる性質を示すと考えています。システム生命科学研究室では、24S-hydroxycholesterolの解析を通してアルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患の発症機構の解明と新たな治療法の創出に取り組んでいます。

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